◆岐阜県のLRT構想について
令和7年第3回岐阜県議会定例会で、江崎禎英知事がLRT構想について答弁され、以来世間の話題となっています。岐阜市としては、中心市街地活性化施策の一つと認識し、担当部局が県と協議を始めています。
岐阜県全体の行政に責任を負う知事が、岐阜羽島駅から岐阜ICまで、10年間でLRTを通すとの構想を公に語られている訳ですから、議論や想像を促すためという次元に止まらない意味と責任があると、私は真面目に考えます。様々な方が期待し、夢を描きます。だからこそ、実現可能性を追求するためには、事前に数々の課題について綿密な検討を重ねておくことが、責任ある立場にある者には求められます。私は、県のLRT構想について反対している訳ではありません。岐阜市が取り組む道路空間利活用など公共交通と歩くことを土台としたウォーカブルシティと親和性の高い構想だと思います。実現に向けて、県と市で課題についての勉強会を設けて検討しましょうと、知事に直接ご提案しました。
岐阜市が想定する課題は、大きく5点です。1点目は、事業費と事業採算性です。県道を通すことで、極力用地取得を行わず、架線のない充電式のLRTを検討しておられますが、全線新設となり、賃上げや物価高騰などにより、初期投資は県の想定を上回る多額の予算が見込まれます。県財政は基金の取崩しが続けば逼迫は免れないとの発表もあり、ガソリン税の暫定税率の廃止を始めとする減税が実施されると、更に財政運営が厳しくなるのではないでしょうか。2点目は、自動車交通への影響です。道路内に専用軌道を設置する場合、車線は減少します。LRTの県道だけでなく、周辺の市道などにも渋滞の影響が及び、生活道路や通学路の安全対策も検討しなければなりません。バス停や荷捌き場所を、減少した車線内でどう確保するのでしょうか。3点目は、既存の電車やバスの公共交通への影響です。路線が重なる名鉄竹鼻線や岐阜市内の幹線バス路線はLRTとの競合が想定されます。利用者が減少すれば、路線の存廃や経営問題に直結します。事前に公共交通事業者と丁寧な協議を行うことは、必要不可欠ではないでしょうか。4点目は、運行ルート上の既存インフラへの影響です。橋梁や排水路、上下水道やガス管などのライフライン、陸閘のレールや道路地下の貯留槽など治水施設がLRT車両や設備の重量に耐えられるのか検証を行う必要があり、結果次第では既存インフラの改良や移設に大きな予算が生じます。最後の5点目は、市民の皆さんのご理解と合意形成が大変重要です。様々な意見の結果、平成17年に路面電車が廃止され、バスを中心とした交通ネットワークを構築してきました。運転者不足に対応するため、自動運転バスの将来の導入を見据えて実証実験を重ねています。LRTの導入は、公共交通政策、更にはまちづくり政策の大きな転換ですので、専門家や公安委員会、道路管理者、公共交通事業者など関係者と県市が、数々の課題を慎重かつ丁寧に検証する必要があると考えています。
最後に、岐阜市としては、再開発事業や名鉄高架化事業など、既に関係者と連携して推進してきた事業を着実に実現する責任があり、中期財政計画により財政見通しを立てて、計画的に取り組んできました。岐阜県の都市計画決定や覚書の締結、県と市の職員が協力して用地取得を進めてきた経緯があります。これらの事業を実現することを大前提として、今後も県と協力して課題解決に取り組みますので、市民の皆さんのご理解ご協力を宜しくお願い致します。
岐阜市長 柴橋
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