■心に寄り添い声を聴く《ひきこもり当事者の親Aさんにお話を聞きました》
◆当事者の親 ひきこもりの子を持つ父Aさん
〇どうにかなるだろう
20年以上ひきこもっている息子が家にいます。彼は大学卒業後に就職しましたが、2年目の転勤の数日後に離職し、その後は無職の状態になりました。
その頃は、「そのうちに働きだすだろう」と安易な考えで本人任せにしていましたが、事態が少しも進展しない状態が3~4年続き、「もしかしてひきこもりかもしれない」とひきこもりや精神的な病気を疑い、関連本を読んだり講演を聴くようになりました。
「パソコン教室や職探しに行ってみたら」「相談機関に相談してみたら」と働きかけましたが反応はありませんでした。
〇繰り返しの日々
彼と対面で話し合いをし、期限を決め職探しをする約束をしました。その時は本人も納得するのですが、期限が来ても状況は変わらず、その繰り返しが3~4年続きました。
〇息子の怒り~心の叫び~
その頃は、誰もがやっているのになぜできないのだろうという思いから「いつまでこんな生活をしているのか」「バイトぐらいならできるのではないか」と叱咤激励の声かけをしていました。息子の同級生に2人目の子どもが生まれると聞くと、世間一般の既成概念と比較したり、自分の人生に自負があり、それを息子に押し付けていたのだと思います。
私からの叱責に対して、「自分が苦しんでいるのに何もしてくれなかった」「自分がこうなったのは親のせいだ」と彼から怒りが溢れだしました。
その怒りは心からの叫びだったのだと思います。
〇傾聴することと訪れた変化
自分のこれまでの仕事中心の生き方や、子どもに関わってやれず一方的な親の主張・説得をしていたことなどを反省し、彼に自信を持たせ、彼の心に寄り添い話をよく聴こうと決め、子育てのやり直しを決意しました。
そして家族の一員としての役割を持たせようと、なくなった日用品の買い出しや重い物を運ぶ手伝いなど小さな仕事をお願いすると、本人もやってくれるようになり、最近は親子の共同作業として一緒に農業体験をやるようになりました。それからは、家の中の重苦しさが無くなり、彼も穏やかな表情でこちらからの声かけにも耳を貸すようになりました。
以前はか細かった声に力強さが感じられるようになり、こうした変化を大切にして小さな一歩を積み重ねていけるようにと願っています。
〇家族の集い「ほっとcafe」に参加して
参加者の皆さんが、苦しいことを精一杯話されるので共感でき、ひきこもりは百人百様だと感じます。追い詰められた気持ちが解放されて、いろいろな気づきもあります。
〇残された課題は親亡き後のこと
家の中のことはできますが、就労など社会への一歩が踏み出せない中、親亡き後にどのような力をつけていけば今後暮らしていけるのか、病気になったらどうすればよいのかなど不安があります。
◆支援者 NPO法人仕事工房ポポロ 理事長 中川健史さん
不登校、ひきこもりなど、困難な状況にある子どもや若者と、その家族に対し、出番や役割のある地域づくりを結びつけて支援を実施。
〇ひきこもりは見えにくい
ひきこもりの状態の人は、誠実で人一倍まじめな性格の人が多いです。彼らにとって誰かに助けを求めることはとても大変なことです。親も周囲の目を気にして、誰にも相談できずに家族だけで抱えこんでしまうケースが多く、孤立してしまい支援が届きづらくなります。
〇8050問題の深刻化
8050問題はますます深刻な状況に直面しています。経済的な支えとなってきた親の死後に、当事者の生活は困難になりますが、困窮の度合いが深刻化してしまってから相談に訪れることも指摘されています。
ひきこもり支援では、背景に複雑に絡み合った問題が潜んでおり、社会全体の総力戦での支援体制が求められています。
〇私たちにできることは
彼らに、こちらが何かをしてあげようというよりも力を貸してほしいことを伝えること。彼らは、働きたくないわけではなく誰かの役に立ちたいという思いが強い人も多いです。
親子関係や近所の関わりの中で、普通の近所づきあいができる関係が築けたらすごく良いと思います。
〇誰もが活躍できる社会を
彼らが活躍できない社会は、私たちにとっても生きづらい社会です。困っている人も含め包摂できる社会になると良いと思います。
◆家族会 岐阜ドレミファの会 代表 篠田みゆきさん
ひきこもりの子を持つ親としての経験から、当事者・家族会を運営。
〇ひきこもりの現状
国の調査から推計すると、市内には約5千人のひきこもりの状態の人がいると考えられますが、声をあげられない家族が多く、この数倍の人々が悩んでいることを知ってほしいです。
学童期の不登校のケースから2割程はそのまま長期化するともいわれており、最初の対応はとても大切です。また、その家族に支援に関する必要な情報を伝えるということも非常に大事なことです。
〇家族も当事者
当事者の親は、自分の子どものことなので苦しみが大きい反面、誰かに気軽に相談しにくい状況があります。「親の自己責任」「育て方が悪い」「甘やかし」「家の恥」などと考えて外に助けを求められず、家族の中で抱え込んでしまいます。
当事者支援はもちろんですが、家族支援も必要です。
〇親が解放される居場所を
まず親が解放される居場所があり、誰かとつながることによって、家族の中に風穴が開きます。同じ立場の他家族との交流やひきこもり経験を持つ人によるピアサポートなど居場所づくりが求められています。
〇支援の仕組みづくりなど
ひきこもり支援は、問題が複合化し期間が長期化することからも、行政においては、教育や若者支援、福祉部署が互いに連携し、しっかりと引継ぐ仕組みづくりが大切です。また、当事者・家族の人権や生存権を守るための法整備も必要だと考えています。
企画・編集/広報広聴課
問合せ:ひきこもり相談室
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